シリーズ「お引っ越し」 〜キャハ嬢との日々 前編〜


何軒も巡る中の1軒に過ぎなかった不動産屋。
仮に「A社」としましょうか。
他と同じく、ネットで気になった物件の見学申し込みをした先です。




しばらくして、A社の男性から電話がかかってきました。
希望条件とか年齢、職業やなんかを聞かれました。




そして最後の質問。
「何名様でお住まい予定ですか?」
『一人です。』

もう聞かれ慣れていたので食い気味に答えましたよ、ええ。




そして行く日を打ち合わせて。
「それでは当日お待ちしております。」
以上。




普通ならこれで終わり、のはずだったんです。








しかし、10分くらいして同じ番号からの着信。
「何だろう?」と思って電話に出ると、今度は若い女性の声。




「あ、あのっ、私、先ほどの者に代わりまして、you-1様のご担当をさせていただくことになりましてっ・・・」




たどたどしくも初々しい若い娘さんの声にニヤニヤしながらも。
はて?
さっき男の人と話したばっかなのに、そんなに急に担当の人替わったりするもんだろうか?
急に都合悪くなったりしたのかな?









あ、「一人」って言ったからだ。








なるほど。
中年一人で物件探しって言う男に対して、若い女の子を担当させれば契約取れる可能性は高くなりますもんね。








前科あるし。








いや、そりゃそうだけど。
でもそこまであからさまだと何か腹立つなあ。
まあいいけどさ。




「you-1様、ご来社は2月13日とのことでしたね。」
『はい、そうですが。』




「バレンタインイブですけど大丈夫ですかあ?キャハっ。」










藪から棒に何を言い出すのだこの娘さんは。







バレンタイン何それ食えんのイブなんてねえしだいたい大丈夫って何がだ。




でも、逆にちょっと楽しそうな気もしてきたんです。
なんかこう・・・電話越しだけでも悪いコじゃないのはわかる、みたいな。




あとはネタをたんまり提供してくれそうな予感がしたんですよね。







結果大正解。






ひとまず彼女のことは心の中で「キャハ嬢」と名付けました。
ここから約1ヶ月にわたるキャハ嬢との日々が始まります。