彷徨


ウチまで歩けるんじゃね?




そんなワケのわからない思いつきにより、思いもかけない長旅に出たわけでして。
しかもシャツにニットの上にコートを着て、トラウザーズにレザーソールの革靴という、
120%ウォーキングに適さない格好で。


とりあえずひたすら歩き続けました。
しかし、歩けば歩くほど迷路に迷い込んでしまったような、そんな感覚。
電柱の番地表示を見ます。
区は合っています。
でも全然聞いたことのない地名です。
ここはいったいどこなのでしょう・・・。




そんなこんなで20分ほど歩いたでしょうか。
前方に眩しいばかりの明かりが見えてきました。
車がたくさん通る音も聞こえます。
その明かりを目当てにひたすら歩きました。


着いた先は、某有名な幹線道路でした。
この道がどこに向かっているかはわかりません。
ただ、上の方にある道路案内が南へ向かっていることを教えてくれました。
とりあえず一安心。
何かあったらタクシーもすぐつかまりそうだし、困った時は携帯で地図か何か調べれば行き倒れることはないでしょう。
ただ、普通に歩き続けるのもヒマ。
そんなことを考えて、携帯で何かサイトでも見ながら歩こうかと思いましてね。
何気なく携帯を開いてみたのです。












携帯の 電池が切れてて どうしよう (心の俳句)












これは困りました。
もちろんGPS機能なんかついてませんから、いざ使うといっても周囲の目印をもとに地図を見るくらいしかできないわけですが。
それでも万が一の保険が使えなくなってしまったこの状況は不安。
こうなると、アテになるのは道路案内と電柱の番地表示のみ。


もうとっくに酔いは醒めています。
今後身の振り方をどうするのか決めるにしても、とりあえず自分がどこにいるのか知りたい・・・。




そんなこんなで30分ほど歩いたでしょうか。
道の傍らに住宅地図を見つけたのです。
歩き始めて初めて地図を見つけた喜びから、思わず駆け寄ったのです。
とりあえず自分がどこにいるかわかれば、歩き続けるにしろ諦めてタクシーに乗るにしろ、決心がつくというもの。
そう思い、地図を見てみました。




えっと、あのですね・・・
私はずっと、降りた駅からまっすぐ南に下りていけばいいものだとばかり思っていたのですよ。
しかしその地図によると・・・








降りた駅からまっすぐ南東へ向かう道が正解。






でですね、私が歩いている道路なんですけどね・・・
とりあえず南に向かって歩いていたつもりではいたんですけどね・・・
私が歩いていた道が、








降りた駅からまっすぐ南西に向かう不正解の道。








ここに直角二等辺三角形があるとします。



出発地をA、現在いる地点をB、この時間本来いるべき正解の地点をCとするとAB、ACとBCの辺の比率は三平方の定理により1:√2であり今後歩くべき距離を換算するに一旦は真東に向かって歩かなければならないわけでちゃんと歩いていた場合の距離(AC)を1とするとまるまる√2(BC)分を歩かなければならないわけでえっと










僕もうおウチに帰る(だから帰る途中です)








この時点でかなり心が折れました。
もうタクシーに乗ってもいいんでは?
そうも思ったのですが、なぜかそれは負けのような気がしてきましてね。
多少強引ながらも、おおまかに出発地と我が家を北と南に分けてみるとちょうど真ん中辺りにいることも判明しましたし。
ちょっとばかし斜めに歩いてしまいはしたものの、とりあえず半分まで来ていたことも、踏みとどまった原因の一つ。
ま、8割方意地でしたけど。




ま、とりあえずは一旦西を目指すことを決意したわけです。




この時点で午前2時・・・。


(次回、最終回へ)