真実は、どこに・・・


(つづき)


それは今からもう13年ほど前のことになるでしょうか。
大学浪人をしていた頃のことです。


当時私は地元の予備校に通っておりまして。
毎日それはそれは血の滲むような(?)受験勉強をしていました。
朝8時に予備校に行き、講義を受けて、夕方5時から自習室が閉まる10時まで勉強。
帰ってからだいたい午前3時くらいまで勉強。
そしてまた翌朝予備校へ、と。
人生の中で唯一といっていいくらいパチンコを打たなかった時期です。


そんな生活を送っていたある日のこと。
確か夕食時だったと思います。
隣に住む奥さんが我が家を訪ねてきたのです。
当時お隣さんは引っ越してきたばかりの若い夫婦でした。
めったに会うこともなく、ご近所づきあいもなかったのですが、この日は珍しく。


15分ほど玄関先で母が立ち話をしていました。
母は戻ってきた後も何も言いませんでしたし、特に気にも留めていなかったのです。


それからしばらく経ったある日。
母がふと話し始めました。


『この前お隣さんが来てね。』
「ああ、来てたね。」
『なんかね、最近下着泥棒が来てるかもしれないんだって。』
「へえ。そうなんだ・・・あっ!。そういえばね、夜勉強してる時に最近物音がすることがあるんだよ。」
『やっぱそう・・・。それって何時頃?』
「(当時僕は2階に住んでいましたので)下から物音がするんだけどね。だいたい2時とか3時くらいかな。」
『そう・・・お隣さんに気をつけるように言っておくね・・・。』
「うん。オレも気付いたら外見ておくよ。」


当時よく深夜に物音がしていたのは確かです。
それがまさか下着泥棒だったとは思いませんでしたけどね。
で、なんかわかりませんが、妙な正義感と使命感に駆られましてね。
かといって物音がしたからといって出て行ったりして、本当に泥棒だったら身の危険が及ぶかもしれませんし。
なので考えに考えた結果、当時持っていた一眼レフカメラをフラッシュが作動するように準備をしておいて、物音がしたら2階の窓からシャッターを切る、ということをやってみたのです。
顔とかは見えませんが、威嚇くらいにはなるかな、って。


そしてそれからしばらくしたある日。
やはり深夜に勉強していると、ありえない時間にありえない物音がしたのです。


「(これは間違いない。ついに時は来た。)」


と、震える手でそっと窓を開け、レンズだけを外に出し・・・シャッターを切りました。
煌々と光るフラッシュ。
外の様子は見ていませんが、確かに走り去る足音が聞こえました。


「(やった・・・。オレはやり遂げたんだ・・・。)」


その日以来深夜に物音がすることはなくなりました。
僕が下着泥棒を追い払ったのです。
しばらくして、母に一部始終を誇らしげに話したことを覚えています・・・。












もう13年も前の出来事。
こんなことがあったことすら忘れていました。
風の強い日に、ベランダに干されている洗濯物を何気なく見たこの日まで。




でも・・・この出来事を思い出すとともに浮かび上がってきたある疑惑。
それは・・・。




もうここまで書けばおわかりですよね。










隣の奥さんが疑っていたのは、「僕」ですよね?









当時僕は暗い顔して勉強しかしていない浪人生。
深夜たまにジュース買いに外に出たりすることは、よくありました。
そしてたまに隠れてタバコを吸うために、すっごくコソコソ外に出て行って、家から遠く離れたところまで行ったりしました。


多分隣の奥さんは、まず最初に盗まれたことがわかったら、警戒しますよね。
そして、旦那さんも含めて、たまにかもしれませんけど様子を伺ったりしたこともあったかもしれません。
すると深夜にたまにコソコソ出て行く隣のネクラそうな浪人生がいる・・・。


隣の奥さんがうちの母に話しに来た時に、どんな会話がなされていたのかはわかりません。
「お宅の息子さんじゃないですか?」
なんて言われたかもしれません。
そういえば最初に話があったときも、その後撃退した(であろう)ことを話した時も、母のリアクションは薄かったような・・・。


ほどなくしてお隣さんは引っ越していきました。


今となっては、真実はどうだったのか、知る由もありません。
母に聞いても覚えてないでしょう。
・・・いや、もし万が一「そうだよ。アンタ疑われてたよ。」なんて言われたら、5日は立ち直れません。


でも・・・。
そう考えると、全て辻褄が合う気がするのです・・・。


今まで「ベランダに干されている洗濯物」を見ることなんて、いくらでもあったはずです。
なぜ今回、こんなことを思い出してしまったのでしょう?
もう13年も昔のこと。
とっくに忘却の彼方に追いやっていた出来事なのに・・・。




でも、最後にこれだけは言わせてください。











僕は無実です。