猫のはなし

you-1-slot7772006-07-09



今日の仕事中、会社に一匹の仔猫が迷い込んできました。
(写真はもらいもので本人(猫)ではありませんが)
終業までみんな手が離せなかったんで、ちょっとの間ダンボール箱に入れてミルクとかあげといて。
これがまたかわいい猫でしてね。
おとなしくて人懐っこくて、ちょっと周りから人がいなくなると寂しくなって鳴きだして。
誰でも一回抱きかかえると、逆に猫が放そうとしない。
多分野良猫じゃないな、ってみんなで話してましたが。
帰りに近くの空き地に放してきました。
家族のところに帰れたらいいね。


さて、たまに「犬派」か「猫派」か、という論争がありますが、僕は間違いなく猫派。
それはかつて、我が家で何匹も猫を飼っていたことがあるからでしょう。


そんな猫派な僕ですが、猫を見ると必ず思い出す話があります。
ちょっと昔話にお付き合いくださいませ。


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20年くらい前のある時期、我が家は借家に引っ越しました。


ある日、一番下の弟(当時小学校1年だったかな?)が、帰り道で捨て猫を拾ってきました。
まだ生まれて間もない仔猫でした。
当時我が家では、前の家飼っていた猫がいなくなってしばらく経っており、家族全員で歓迎ムードでした。
が、借家は借家。
大家さんは知り合いの方だったけど、やっぱりペットはマズイだろう、っていう話になったのかな。確か。
でも拾ってきた弟がかわいそうだと号泣して。
「じゃあ一日だけね。」という話が、やっぱり猫好き一家。
なんとなくなし崩し的に彼はわが家に住むことになったのです。


それはグレーと黒の縞模様のオス猫。
まだ震えていました。
そんなミルクしか飲めない彼を「名前は何にする」「首輪はどうする」などと、家族全員で見つめていました。


彼は(自意識過剰かもしれませんが)僕に一番懐いていました。
仔猫のうちはダンボールに毛布を敷いて部屋を作ってやって、彼もそこで寝ていたのですが。
ある日宿題を終わらせて寝ようとした時。
隙間が空いていたドアから、彼がトコトコ僕のところにやって来て布団に潜り込んできたのです。
結構遅い時間なのに。
なんで僕のとこに?なんで寝る時間わかったの?
頭は?だらけでしたが、とにかく嬉しくて。
その日以来彼は毎晩僕の布団で寝るようになりました。
まあ寝相が悪いので、朝には必ずいなくなってましたが。
よく下敷きにならなかったもんだ、と今になって思います。


そんな平和な日々が続きました・・・。



そして3ヶ月くらい経ったある日のこと。
いつものように彼が外遊びから帰ってきて家に入ろうとした時です。
それまで一緒になって可愛がっていた父が、急に彼が家に入ることを拒んだのです。


なぜだかわかりませんでした。
多分彼もなぜだかわからなかったでしょう。
いつものように家に入り、自分の部屋でくつろいで、寝る時は僕の布団に。
そう思っていたのでしょう。


でも父は彼を叩きました。
そして外に出しました。
彼は何度も家に入ろうとしました。
でも父は外に出しました。
その度に叩いて。
当時の我が家では父が絶対。
逆らうことはできませんでした。
僕も幼かったのでしょう。
なぜかわからない、家に入れてあげたい、とにかく叩くのはやめて欲しい。
そう思いながらも口にはできませんでした。


次の日も次の日も彼は家に入ろうとしました。
でも父は彼を入れませんでした。
そんな日が5日くらい続いたでしょうか。
彼は家に帰ってこなくなりました。


今になって思えば、借家であるがために、大家さんに注意されたのでしょう。
でも僕はそれがわからない年齢でした。
父もそう言えばよかったのに、とも思います。
そして彼の今後について話し合いでもできていれば。
でも父は無口で頑固な人間。
それができなかったのでしょう。


とても寂しかった。
いつも寝る時一緒にいた彼が、いない。
死んでしまったんじゃない。
いなくなったんでもない。
彼はどこかにいるのに、ここにはいない。
気の抜けたような日々が続きました。


それから2ヶ月ほど過ぎたある日。
学校から帰宅すると、家の前に彼がいました。
2ヶ月前より随分大きくなって。
嬉しくなって彼の元に駆け寄りました。


・・・彼は逃げました。
僕の顔を見るなり一目散に。
そして姿が見えなくなる寸前で、一瞬目が合いました。
その時の彼の目は今でも忘れられません。
気のせいかもしれませんが、とても悲しそうな、恨めしそうな・・・そんな目でした。


以来我が家では猫を飼うことはありませんでした。
借家から自家に移っても、今現在まで飼っていません。


あの時彼はどう思ったのでしょう。
そしてどのような生涯を送り、どのように亡くなっていったのでしょう。


今でも猫を見ると思い出す話です。
いつか猫を飼えるようになったら、彼の分まで思いっきり可愛がってやりたい。
ずっとそう思っています。