僕は、嘘を、ついた・・・


仕事もヤマ場。
帰れない日が多くなってきました。
それでも今日は何とか帰れそうだったので、着替え程度ですが、一旦帰ることにしたのです。
当然電車も運行していない時間でしたから、タクシーに乗ったわけですが。


乗り込んで行き先を告げて。
疲労もピークでしたからね。
ほどなく寝ようとしたのです。


が、タクシーの運ちゃんが結構話好きな人っぽくてですね。
ま、疲れてるし眠いしで、普通だったら寝たフリとかして流すんでしょうけど。
なんか・・・いい人でしてね。
他愛もない話だったけど、なんとなく会話が弾んでいって眠気も覚めてきたので、到着までの間ずっと話をしていたのです。


『お客さん、こんな時間まで大変ですね。』
「まあ最近はこんなもんですから。」
『結構夜遅くまでって多いんですか?もしかして最近流行りのIT系ってやつですか?』
「いや、そんなたいしたもんじゃないですよ(笑)。」
なんて、ね。


そこから少し、運ちゃんの身の上話を聞きました。
運ちゃんも昔会社勤めしていたんだということ。
その時に、戸塚から阿佐ヶ谷まで毎日通っていたんだということ。
電車通勤が辛くて今の仕事に転職したんだということ・・・


『でもですね、電車通勤が辛かったこともあるんですが、家族と会う時間がないことが、一番辛かったんですよ・・・。』
そうですか。
そういうもんですかねえ。


『お客さんも、ご家族寂しがってるでしょ?』


え?ご家族?
父母は離れて住んでるし・・・
って、あ、あー、所帯持ちに見えるのね。


いや、僕独身なんd
「そうなんですよ。女房も子供も寂しがっちゃって。」
『そうでしょう。お仕事大変なのはわかりますけど、ご家族は本当に寂しい思いをされてると思いますよ。大事にしてあげてくださいね。』
「まあでも仕事ですからね。はは。」
『いいえ、仕事以上に大事にしなきゃいけません。』
「そんなもんですかねえ。」
『そうですよ。私は身をもってそれを知りました。だから今の仕事にしたんです。少しでも家族と一緒にいたかったから。』


降り際に、
『お客さん、料金少しオマケしますから、お子さんにお菓子でも買っていってあげてください。』って。
何て泣ける言葉。
料金は会社に請求することもあって丁重にお断りしましたが、その心遣いがとても嬉しくて。




でもね・・・


ごめん、運ちゃん。


あれ、全部嘘なんだ・・・